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福岡地方裁判所 昭和39年(行ウ)1号 判決 1967年8月24日

北九州市戸畑区古池町四丁目五番地

原告

笹川商事株式会社

右代表者代表取締役

加藤良雄

同市同区参宮通一丁目

原告

加藤良雄

右両名訴訟代理人弁護士

徳永平次

被告

八幡税務署長

古賀英嗣

右指定代理人大蔵事務官

山本保美

小林淳

中島久人

藤井正春

法務大臣指定代理人

福岡法務局訟務部付検事

大道友彦

法務事務官

川崎高逸

右当事者間の昭和三九年(行ウ)第一号更正決定取消並びに差押物件取戻請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告らの各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告両名訴訟代理人は「一、原告笹川商事株式会社(以下原告会社という)関係において。被告が原告会社の昭和三六年七月一日から同三七年六月三〇日までの事業年度の法人税につき、同三八年三月一四日付をもつてなした、法人税額を金一〇万六、九五〇円とする旨の更正処分及び過少申告加算税額を金五、三〇〇円とする決定をいづれも取消す。二、原告加藤関係において。被告が右各税の滞納処分として、同年五月二八日付をもつてなした別紙目録記載の物件に対する差押処分は取消す。三、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、

原告会社の請求の原因として

(一)  原告会社は旅館、割烹等の経営を業とする株式会社であるが、昭和三六年七月一日から同三七年六月三〇日までの事業年度(以下本件事業年度という)の法人税につき所得金額を欠損金四一〇万三六六円として被告に対し確定申告をなしたところ、被告は昭和三八年三月一四日付をもつて、所得金額を金三二万四、一九四円、法人税額を金一〇万六、九五〇円とする更正処分及び過少申告加算税額を金五、三〇〇円とする旨の決定(以下これらを併せて本件更正処分という)をなし、その旨原告会社に通知した。これに対し原告会社は同年四月一一日被告に対し異議の申立をなしたが、被告は同年六月二四日付でこれが棄却決定をなしたので、原告会社はこれを不服として同年七月二〇日訴外福岡国税局長に対し本件事業年度の所得金額を欠損金二三四万九、一〇四円と訂正したうえ審査請求をなしたところ、同局長は昭和三九年二月二〇日付で右審査請求を棄却する旨の決定をなしその旨原告会社に通知した。

(二)、しかしながら本件事業年度における原告会社の所得金額は別表B欄記載のとおり、欠損金三三九万四、一〇四円であつて、これは正確に記帳された帳簿に基づき算出された金額であるのに対して、被告の本件更正処分はいずれも原告会社の所得につき充分な調査を行うことなく、単なる見込みに基づいてなされた過大失当なものである。よつて、原告会社は被告のなした右違法な処分の取消を求める。

と述べ、更に原告加藤の請求原因として、

(一)、また被告は本件更正処分による右各税の滞納処分として、昭和三八年五月二八日別紙目録記載の物件を差押えた。

しかしながら、右差押物件は原告加藤が昭和三五年六月二七日訴外大阪金属株式会社から代金一〇六万円で買受け、原告加藤個人の所有に属する物であるから、被告の原告会社に対する滞納処分に服すべきいわれはない。従つて被告が右物件に対してなした本件滞納処分は違法なものである。

そこで、原告は同年六月二五日被告に対し異議の申立をしたところ、被告は同年九月二〇日これを棄却したので、原告は同年一〇月二〇日訴外福岡国税局長に対し審査請求をしたが、同局長は昭和三九年二月二六日右請求を棄却した。よつて原告は右滞納処分の取消を求める。

と述べ、立証として、

証人加藤マツヱ、同加藤征男、同加藤正晴の各証言を援用し、乙第一ないし第七号証、及び第一〇ないし第一六号証の成立を認め、その余の乙号各証は不知と述べた。

被告指定代理人は「主文同旨」の判決を求め、

原告会社の請求原因に対する答弁並びに反対主張として、

一、原告会社主張の請求原因(一)の事実は認める。同(二)の事実は争う。

すなわち、原告会社の本件事業年度における所得金額は金九九万九九九円であつて、その内容は別表A欄記載のとおりである。そして同欄記載各科目の金額のうち、原告会社主張の金額(同表B欄記載)と一致しない科目の金額算出の根拠はつぎのとおりである。

(1)  同表科目3管理費、販売費中(二)広告宣伝費について。

原告会社の主張によれば、同科目の総額は一九四万八、五一九円であるが、そのうちには新九州広告社に対する支給額として一〇二万九、二四五円が計上されているところ、被告においてその受領先について調査した結果によれば、実際の支給額は六一万二、一八〇円である。従つて、同金額を超える部分を否認し、

(2)  右同(ヘ)水道光熱費について。

原告会社主張額は二一六万八、九七三円であるが、被告の調査によると電灯料は七四万四八三円、ガス代は五〇万三、六四一円、水道代は四七万七、三五七円、合計一七二万一、四八一円となるにすぎない。従つて、同金額を超える部分を否認し、

(3)  右同(チ)店舗改造改築費八三万二、〇三四円について。

原告会社主張額は一九七万八、九三二円でその内訳は店内改造費一一四万六、八九八円、修理費八三万二、〇三四円であるが、右店内改造費は中本町支店開設のために支出したものであつて、これは税法上資本的支出と認められ、これを損金として計上することは認められないから右費用に該当する部分を否認し、従つて同科目として計上すべき金額は、修理費金八三万二、〇三四円となる。

(4)  右同(リ)雑費一〇四万八、八一六円について。

原告会社主張額は合計金二〇七万一、三六七円であるが、右金額にはつぎのとおり損金として計上すべきでない支出が含まれているので、その部分合計金一二五万四、〇〇一円を原告会社の主張額から差引いたうえ、原告会社が損金として計上することを許されるのに、これを計上しなかつた支出合計金二三万一、四五〇円(運賃三万二、六七〇円、事務用品費一八万二、五六〇円、手数料二、八〇〇円、交際費一万三、四二〇円)を雑費科目として追認し、結局、同科目の合計金は一〇四万八、八一六円として計上さるべきものである。従つて、原告会社の主張額のうち右をこえる部分は否認した。すなわち、

1、資本的支出と認められるから否認したもの五一万七、六二七円でその内訳は、桑原商店に対する支出金一二万八、〇九〇円、中村硝子店に対する支出金三万七、八七〇円、遠藤商会に対する支出金二二万六、五六七円、ガス会社に対する支出金一二万五、一〇〇円。

2、原告会社代表者個人の雑費と認められるため否認したもの四四万六、八二〇円でその内訳は、池田板金に対する支出金九、六〇〇円、大畠商店に対する支出金六、三〇〇円、三光商会に対する支出金七、三五〇円、三交産業に対する支出金三〇〇円、寿産業に対する支出金一万三、〇〇〇円、興国ネオンに対する支出金五、〇〇〇円、北条染工場に対する支出金六万二〇〇円、きんとく堂に対する支出金八万二、三七〇円、ボーリング代一〇万七、七〇〇円、ダツトサン購入代一四万五、〇〇〇円。

3、支出の内容が不明であるため否認したもの二八万九、五五四円でその内訳は、大元商店に対する支出金六万一、八五四円、佐野金物店に対する支出金五万七、四〇〇円、渋谷商店に対する支出金五万三〇〇円、土地代として支出した金額一二万円。

(5)  右同(ル)火災保険料について。

原告会社の主張額は金四万二、〇〇〇円であるが原告会社が火災保険契約を締結した事実はないので全額否認し、

(6)  右同(ヲ)飲食税一二五万四、〇〇一円について。

原告会社の主張額は一四四万九六九円であるが調査の結果原告会社の当期における飲食税額は、金一二五万四、〇〇一円である。従つてこれを超える部分を否認し、

(7)  (ワ)支払利息九二万四一一円について。

原告会社の主張額は金一一〇万五四〇円でそのうちには九州相互銀行に金四二万円、福岡相互銀行に一九万二、〇〇〇円佐賀相互銀行に八万四、〇〇〇円計六九万六、〇〇〇円支払つた旨主張を含んでいるが調査の結果右三銀行に対する支払利息の合計実額は金五一万五、八七一円にすぎないので、原告主張の右三銀行に対する支出総額のうち右金額を超える部分金一八万一二九円を否認して、これを差引けば同科目の総額は金九二万四一一円と計上すべきものとなる。

(8)  科目4火災損害について。

原告会社は昭和三七年六月二九日原告会社が火災によつて蒙つた損害として金一〇四万五、〇〇〇円を主張しているが、被告がなしたその後の調査によれば、その損害の額は金一〇万三、〇〇〇円であることが判明した。従つて、同科目の金額は金一〇万三、〇〇〇円として計上さるべきもので、原告主張の金額中右金額を超える部分は否認した。

二、以上を総合すれば、原告会社の本件事業年度における所得金額は少くとも金九九万九九九円となるのであるが、被告は本件更正処分において原告会社の本件事業年度の所得金額を右実際の所得金額より少い金三二万四、一九四円と決定し、これに基づいて法人税額金一〇万六、九五〇円及び過少申告加算税額金五、三〇〇円を算出したものであるから右処分には何ら違法な点はない。

と述べ、

次に、原告加藤の請求原因に対する答弁として、

一、右請求原因事実中、被告が原告会社に対する滞納処分として原告加藤主張のとおり差押をしたこと、同原告はその主張のとおり右滞納処分について異議の申立をしたが、被告においてこれを棄却したため更に福岡国税局長に対して審査請求をなし、同局長が右請求を棄却したことはいずれも認めるが、右差押物件が原告の所有であるとの事実は否認する。右物件は原告会社の所有に属するものであるから、被告が右物件についてなした本件滞納処分に違法な点はない。

と述べ、

立証として、

乙第一ないし第二〇号証を提出し、証人桝田勇の証言を援用した。

理由

第一、原告会社の請求に対する判断

一、原告会社の請求の原因(一)の事実については当事者間に争いがない。

二、そこで、原告会社の本件事業年度における所得金額について検討する。

(一)  先ず原告会社の本件事業年度の所得金額についての勘定科目は、別表科目欄記載のとおりであつて、右勘定科目のうち、総益金が三、五九五万九、九一三円であること、および総損金のうち売上原価が金一、六七二万五、七二五円であること、管理費販売費のうち(イ)給料諸手当、(ロ)通信費、(ハ)租税公課、(ホ)消耗品費、(ト)家賃、(ヌ)重油燃料費の各科目の金額については、それぞれ別表A欄およびB欄記載のとおりであることについては当事者間に争いがない。

(二)  よつて、同表記載の総損金中その余の勘定科目(当事者間に争いのある科目)について、以下逐次考察する。

(1) 先ず広告宣伝費をみるに、原告会社はこれにつき一九四万八、五一九円と主張するけれども、成立に争いのない乙第六号証によれば、右金額のうちには新九州広告社に対する支払額として金一〇二万九、二四五円を含むものであることが認められる。しかし、原告会社が右広告社に右金額を支払つたことを認むべき証拠はなく、却つて弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第九号証によれば同社に対する支払額は合計金六一万二、一八〇円であることが認められる。そして、同科目中当事者間に争いなきその余の部分を合計すれば、結局右広告宣伝費は金一五三万一、四五四円となるので、これを計上するのが相当である。

(2) 原告会社は水道光熱費として金二一六万八、九七三円と主張するけれども、成立に争いのない乙第六、七号証及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める同第八号証によれば、原告会社が本件事業年度に支払つた電灯料金は七四万四八三円(原告会社の申告額)、水道料金は四七万七、三五七円、ガス料金は五〇万三、六四一円で合計一七二万一、四八一円であることが認められ、原告会社主張額中右金額を超える金四四万七、四九二円については、原告会社がこれを支払つたことを認むべき証拠はない。従つて同科目の金額は金一七二万一、四八一円と計上するのが相当である。

(3) 原告会社は店舗改造改築費として金一九七万八、九三二円を支出した旨主張するけれども、右金額のうち一一四万六、八九八円については、証人桝田勇の証言及び成立に争いのない乙第一〇号証の記載を総合すると、店内改造費として原告会社が計上したものであることが認められるのみで、原告会社がこれを営業の必要経費として現実に支出したことを認めるに足る証拠はない。そうだとすれば結局同科目の金額は被告が修繕費として認める八三万二、〇三四円にすぎないことが認められる。

(4) 原告会社は雑費として金二〇七万一、三六七円を支出した旨主張するが、右金額中被告がこれを認めて争わない金一〇四万八、八一六円を超える部分については、原告会社がこれを必要雑費として支出したことを具体的に認めるに足る証拠はないので、同科目の金額は右金一〇四万八、八一六円と計上するのが相当である。

(5) 原告会社は火災保険料金四万二、〇〇〇円を支出した旨主張するけれども、原告会社が火災保険契約を締結した事実を認めるべき証拠は何もない。

(6) 原告会社が主張する飲食税一四四万九六九円を支出したという点については、これを認めるに足る証拠はなく、成立に争いのない乙第一五号証によれば本件事業年度において原告会社が納付した遊興飲食税の合計金額は一二五万四、〇〇一円であることが認められる。従つて同科目に計上すべき金額は一二五万四、〇〇一円とすべきである。

(7) 支払利息一一〇万五四〇円について

原告会社主張の右金額中、九州相互銀行、福岡相互銀行及び佐賀相互銀行に支払つた旨主張する合計金六九万六、〇〇〇円を除くその余の部分については当事者間に争いがない。右三銀行に支払つた支払利息についてみると弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一七、一八、一九号証によれば、右支払利息の合計額は金五一万五、八七一円であることが認められ、右三銀行に対して右金額を超えて利息金を支払つたことを認めるに足る証拠はない。そうだとすれば結局同科目の金額は、合計金九二万四一一円を計上するのが相当である。

(8) 火災損害金について

原告会社は火災損害額として金一〇四万五、〇〇〇円を主張しているが、原告会社が右と同額の損害をうけたことを認めるに足る証拠はなく、却つて成立に争いのない乙第一一号証によれば原告会社の実害額は金一〇万三、〇〇〇円であることが認められる。そうだとすれば同科目の金額は金一〇万三、〇〇〇円を計上するのが相当である。

以上によれば、原告会社の本件事業年度における総損金の額は前記売上原価一、六七二万五、七二五円、必要経費一、八一四万一八九円及び火災による損害一〇万三、〇〇〇円の合計金三、四九六万八、九一四円である。

三、そこで、原告会社の本件事業年度における総益金三、五九五万九、九一三円から総損金三、四九六万八、九一四円を控除すると、原告会社は本件事業年度において、九九万九九九円の所得を生じたものといわなければならない。これに対し、被告は本件更正処分において原告会社の本件事業年度の所得金額を三二万四、一九四円と認定し、これに基づき法人税額を金一〇万六、九五〇円及び過少申告加算税額を金五、三〇〇円と算出したものであつて、右は前認定の原告の総所得金額の範囲内であるから被告の本件更正処分には何らの違法も存しないものというべくこれを争う原告会社の本訴請求は理由がない。

第二、原告加藤の請求に対する判断

一、原告加藤の請求原因事実中被告が原告会社に対する本件事業年度分法人税及び同過少申告加算税の滞納処分として、昭和三八年五月二八日別紙目録記載の物件を差押えたこと、これに対する原告加藤の異議の申立に対し、被告は同年九月二〇日該異議申立を棄却したこと、右原告は更に訴外福岡国税局長に対し審査請求をしたが、同局長は同三九年二月二六日右審査請求を棄却したこと、以上の事項は当事者間に争いがない。

二、原告加藤は右差押物件が自己の所有に属する旨主張し、乙第一号証によれば、その売買契約書は同原告個人名義で作成されており、証人加藤マツヱの証言中同原告の右主張に添う部分もみうけられるが、更に詳細に検討してみると、成立に争いのない乙第一ないし第五号証に証人加藤マツヱ、同加藤征男によれば、本件物件は昭和三五年六月二七日代価一〇六万円で、大阪金属工業株式会社代理店富士冷凍工業所から購入されて、物件自体は原告会社の経営する割烹旅館「笹川」に据付けられていること、右代価一〇六万円は契約時現金一〇万円と約束手形一八通額面合計九六万円で支払われ、これら約束手形は九州相互銀行戸畑支店の原告加藤名義の当座預金で決済されているけれども、右原告名義の当座預金はその入出金の大部分が原告会社のものであること、しかも、本件物件購入当時の原告加藤には昭和三八年分を除き、毎年課税所得もない状態であつて、右原告には高価な本件物件を購入する資金はなく、また他から資金を借入れた事実もないことがそれぞれ認められ、これらの事実を同原告が右物件を個人として購入使用する必要性を認むべき資料のないことに照らせば、本件差押物件は購入の際の名義並びに決済に利用された当座預金口座の名義が右原告個人の名義であることのみをもつて、ただちに原告加藤の右主張を認めるには充分でなく、又証人加藤マツヱの前記右原告の主張に添う供述部分もただちに措信しがたく、他に右物件が原告加藤個人の所有であることを認めるに足る証拠はなく、却つて前認定の各事実によれば右物件は原告会社が同会社の営業用に使用するために自己の資金で取得したものであつて、原告会社の所有であると認めるのが相当である。

従つて本件物件が原告加藤の所有であるとして被告の右物件に対する滞納処分の取消を求める同原告の本訴請求も理由がない。

第三、よつて原告らの本訴各請求はいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 平田勝雅 裁判官 畑地昭祖 裁判官 上田幹夫)

目録

一、電気冷房機(大阪金属工業株式会社製、中古)一台 以上

別表

<省略>

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